交通事故・損害賠償請求  自賠責保険請求、任意保険請求、賠償額算定


■ケガ(傷害)の損害賠償

 ケガをした場合の保険金は、どのような基準で計算されるのかを説明します。
 賠償額の算定については、さまざまな基準があります。最低は自賠責の算定基準から、最高は裁判で示される基準です。
 
 しかし、一般的に任意保険会社が、被害者に対して最初に示してくる賠償額のほとんどは、最低基準である自賠責の基準で提示してきます。

 
最低基準である自賠責保険の算定ができなければ、そこから先に進むことはできません。

 損害賠償額の算定というのは、一律に計算の方程式にあてはめて答えが出るような単純なものではありません。裁判例等を確認すると、それぞれの事故態様に応じて算定されています。

 どのような要素で判断されるのかを見てみると、

□加害者の事故後にとった被害者への思いやりの程度(負傷者の救護義務)
□怪我の程度(入通院の日数頻度)
□道路交通法の遵守度合(スピード、信号遵守等)に見る安全運転の配慮(危険防止措置)

 その他、総合的に判断されて賠償額が決定されています。従って、損害内容の個々の単価は、自賠責の基準を使うか、裁判の基準を使うかは別にして、そこで判断される損害額として認定される内容は、自賠責で示される内容がほぼ該当する、と考えてよいのです。

 だから、以下の自賠責の損害についての考え方を、最初に見につける必要があるのです。


 全体を一覧表にしたものをご覧いただき、その後の説明をお読みください。



【積極損害】
 事故によって直接的に発生する損害のことです。

1.治療費
 医師による診察料をはじめ入院料や投薬料、手術費用、交通費、入院諸雑費(義肢、義足、松葉杖などの用具)そして診断書などの文書料の支払も含まれます。
 怪我を治療するために当然かかる費用です。

2.その他の治療
 治療とは、本来は医師によるものしか認められませんが、例外として医師の指示により、治療上必要と認められる場合は、柔道整復師、あんま、はり、きゅう、マッサージも認められます。(但し、正規の免許を有する場合に限ります。)
 
 柔道整復等の費用で、有資格者が行う施術費用は、必要かつ妥当な実費とされます。ここで注意しなければいけないのは、それぞれの法律で施術できる範囲が限定されていることです。例えば、柔道整復師は、その法律17条にて『脱臼又は骨折の患部に施術を行うに際しては、応急手当の場合を除き、医師の同意を要する。』とありますが、打撲・捻挫等にかかる施術については、医師の同意を要しない、ものとされています。
 
 人身事故で体に受けた傷害を治療する費用は、原則すべて保険で支払われるのが原則です。

3.看護料
 治療時に患者に付き添った付添人の費用のことです。勿論、付添が必要と認められる場合に限るのは当然のことですが、さらに医師の指示で専門の看護士や家政婦がついた場合にも費用が認められます。

4.付添費
 12歳以下の被害者の場合、医師の指示がなくても母親などの付添看護が認められ、それ以外の被害者も医師の指示があれば、近親者の付添費として1日当たり4,100円が認められます。

5.入院中の諸雑費
 入院1日当たり1100円が領収書なしで認められます。定額を超える場合でも、社会通念上必要と認められる場合は支払われますので、領収書はきちんと取っておくことが大切です。

6.交通費
 公共交通機関の運賃を原則としますが、他の交通機関がないなどの場合はタクシーも認められますが領収書が必要です。自家用車を使用のときはキロ当たり15円の計算で支給されます。


【消極損害】
  事故による受傷のために、間接的に発生する損害のことです。

7.休業損害
 ケガをして仕事を休み、仕事につけない期間を休業期間と言い、その分減収した収入を「休業損害」といい、休業補償の対象となります。
 サラリーマンの場合は、明確ですので問題になることは少ないのですが、会社役員の場合は厄介です。役員報酬というのは原則賃金カットというのはないものなのですが、小規模な会社で使用人兼務役員の場合は、使用人としての減収分は請求できることになります。

 《有給休暇》
 治療で仕事を休むときに、有給休暇を使った場合でも休業損害として認められます。
              (会社が有給休暇を買い上げる、という考えです。)

・ギブス固定期間
 この期間は実治療日数として算定されます。ギブスをすればすべてを認めるという訳ではありません。長管骨骨折や脊柱の骨折・変形によってギブス固定している期間のみとなります。

・日数の計算
 ケガの内容によっては、実治療日数の2倍を限度(ただし治療期間の範囲内)として認定されます。

・賞与
 サラリーマンの場合は、賞与の減額分も補償対象となります。

・主婦
 専業主婦の場合は家事従事者として、1日当たり定額の5,700円が認定されます。

・自営業者
 一番問題となることが多いのですが、定額5,700円を下回る場合は、ここ定額が認定されるので問題になることはありません。これ以上ある場合は前年の所得証明書で証明することになります。
 
 基本的な計算式は
          日額=(年間の収入−必要経費)÷365
 
 自営業者で申告がほぼ実態どおりの人はこれで問題はないのですが、そうでない場合はあの手この手で、実際に収入があることを証明しなければなりません。自営業者の中には、税務申告を何もしていない人も多く入るのです。
 この場合、収入は、取引先などから証明をもらうなどの方法で証明しますがそれをそのまま収入としては認められません。どのような商売でも、収入を得るためにはその分経費がかかります。

 年収(収入金額)         必要経費率

 190万円未満           考慮しない
 190万円以上380万円     年収に対し 20%
 380万円以上570万円未満  年収に対し 30%
 570万円以上           年収に対し 40%

 この計算の調整規定もあり、
 年収190万円以上 237万円までは 190万円
 年収380万円以上 434万円までは 304万円
 年収570万円以上 665万円までは 399万円 となっています。
 
 実際に事故が起き、被害者となった場合には、休業損害がどのように計算され認定されるのか、大きなポイントになります。
            
8.傷害慰謝料
 慰謝料とは、説明するまでもありませんが、精神的苦痛に対する損害賠償のことです。
 法律の根拠は民法第710条です。「他人の身体、自由又は名誉を害したる場合と財産権を害したる場合とを問わず、・・・・
財産以外の損害に対してもその賠償をなすことを要す」

 慰謝料の金額は、自賠責では1日4200円と決められています。それでは、事故で怪我をして、医者から完治しました。もう病院に来る必要はありません、といわれるまでの間いただけるのでしょうか?
 
 そうではありません。算定されるのは、入院している日と通院している日のみです。
実例で見てみましょう。

  事故日=入院(10日間)  通院(20日間)治癒
   |――――――――――|−−−−−−−−−−|−
   1/1         1/10         2/24
  
 上記の場合、入院10日間の後、ほぼ1日置きに週3回通院したとします。
治療期間は55日間となります。
慰謝料 (10日+20日)×2倍=60日>治療期間55日

入院と通院の実治療日数の2倍に4200円を掛けた額がが慰謝料として算定されるのですが、倍数が事故日から治癒までの治療期間を超える場合は、治療期間をもとに算定されます。
 
 従って、このケースは55日×4200円=231,000円 
                                    となります。

 ケガが治っていないのに、仕事が忙しいからと我慢して働いたりしても、そのことを理由として、慰謝料が認められるということはありません。同じように本来、治療していれば治癒していたにも係わらず、忙しいという理由で治療を怠り、その結果悪化させたような場合は慰謝料はもとより、その他の治療費なども賠償の対象にはなりませんので注意が必要です。

 逆に、1日置きに通院する必要もないのにせっせと病院に通い慰謝料を少しでも多くせしめようとする人もいるかもしれません。そのことによって、早く治癒するのならば、結果として同じなのですが、人間の体は自らの回復力が一番の薬なのはご存知のことですね。それはある程度時間のかかることなのです。

 事故のときは緊張感があって痛くない、と思ったが、落ち着いた段階で痛くなった場合、それが7日以内であれば、事故日を治療日とみなします。
 治療を始めたのが、事故から8日以上経っていた場合は、実際に治療を開始した日の7日前から治療を開始したとみなしてくれます。

 慰謝料の算定で、ギブスをしていた期間も実治療日数としてくれます。細かくは、ギブスはどこにしていても認めるかというと、それはありません。
 首とか胸とか、体の根幹部分のギブスと理解しておいてください。
 また、治療はすべて倍するのでもありません。マッサージなどは2倍しない取り決めになっています。



■「傷害の保険金」の計算事例

傷害の内容 
先ほどの実例の内容で全体の保険金額を計算してみましょう。

  事故日=入院(10日間)  通院(20日間)治癒
   |――――――――――|−−−−−−−−−−|−
   1/1         1/10         2/24
  
 入院10日間の後、ほぼ1日置きに週3回(19日)通院したとします。治療期間は55日間となります。

1.積極損害(合計110,250円)
 a.治療費   50,000円(健康保険の本人負担分)
 
b.看護料   5日×4,100円=20,500円
 ・医師の指示が必要ですが、付添人の休業損害が4,100円を超える場合は、1日最高19,000円
  まで認められる。(証明要す)

  ・被害者が12歳以下ならば、医師の指示がなくてもOK。
  
c.付添看護料 3日×2,050円=6,150円
・医師の指示で自宅看護した場合や幼児、歩行困難な場合の通院付添をした場合で、付添看護に必要な寝具代や交通費も請求できる。
 
d.入院諸雑費 10日×1,100円=11,000円
・入院中は領収書なしで1日当り1,100円です。定額を超えた場合社会通念上、必要かつ妥当な範囲であればOK。
  
e.文書料   15,000円
・交通事故証明書、印鑑証明書、診断書、レセプト

f.通院交通費 400円(バス往復)×19=7,600円
・公共交通機関が原則ですが、ケガの状態が重い場合や交通手段がない場合はタクシーOK(領収書要す)。
・自家用車使用は1キロ当り15円の燃料費が認められます。

2.消極損害(合計641,000円)
a.休業損害  41日×10,000円=410,000円
・1月いっぱい会社を休み、2月は通院の日だけ休んだ、と仮定。
・所得は事故前3ヶ月で証明、専業主婦は1日5,700円、自営業者も5,700円ですが、これを超える所得がある場合は、前年度の所得証明で(日額=(年間収入‐必要経費)÷365)計算した額。
・短時間勤務(パート)で勤務日数が少ない場合は、実収入を基に計算

b.慰謝料   55日×4,200円=231,000円  

●総合計 751,250円  

 この内容は、単純なようですが、損害賠償のすべての基本ですのでよく理解しておいてください。後遺障害がある場合は消極損害の慰謝料の計算が複雑になります。
 
 傷害事件や動物による事故などの損害賠償の場合にどうしてよいか分からないことが多いものですが、多くの事例で積み重ねられてきた交通事故の損害賠償の方法を活用すると役に立ちます。

 上記の説明を、自賠責の保険金額の一覧表を確認しながらご覧下さい。項目の欄に書かれているのが、傷害、後遺障害、死亡の各場合による損害賠償の費目です。



                            

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