モータリゼーションの発展とともに自動車事故が増え損害賠償の問題が社会問題となってきて、昭和30年に自動車損害賠償保障法が施行されました。
一般的には自賠責とか強制保険とか呼ばれ、新車登録時や車検の時に強制的に加入させられている保険のことです。
交通事故の損害賠償のもとになる法律は民法です。債権編の第5章不法行為として709条から724条の僅か16条しかありません。非常に大まかな規定のため、様々な問題の解決は判例に基づかなければならないことが多くなっています。
709条は「故意または過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償する責めに任ず」とあります。故意でも過失でも、相手に損害を損害を与えた場合は賠償しなければなりません。刑法では、故意なのか過失なのかで、量刑は大きく異なります。殺人と過失傷害致死では、月とすっぽんの開きがあります。
相手を殴っても、痛めつけようとして殴るのが故意です。傷害罪となります。でも、目の前を飛んでいるハエを追い払おうとして、誤って殴ってしまった場合は、過失傷害です。刑法上は大きな違いがありあすが、賠償上はたいした違いはありません。
不法行為の規定の中には、使用者の責任、共同不法行為、正当防衛、名誉毀損そして過失相殺などの場合の賠償や賠償義務者が定められています。
709条の要件として、加害者に「故意又は過失」があったことを、被害者が証明しなければなりません。加害者が積極的に、自分にこれこれの故意と過失があったなどと証明することを期待してはいけませんし、任せてしまえば、過小に評価するようになるのはごく自然です。
加害者の故意又は過失を証明するのは、そんなに簡単なことではありません。そこで、被害者を救済するために生れたのが、自動車損害賠償保証法なのです。この法律により、強制的に加入を義務付けられているのが自賠責保険なのです。ただし、人身事故のみの対応であり、物損はあくまでも民法によって損害賠償がなされるのです。
自賠法に似たものは、大きな事件や問題が起こるたびに作られてきたのはご存知だろうと思います。例えば、公害問題に端を発して作られた「大気汚染防止法」、道路の瑕疵や公園の管理に問題があって事故を引き起こした場合に、その管理者である国に賠償を求める「国家賠償法」、砒素ミルク事件等をきっかけにできた「製造物責任法(PL法)」など、それらは民法の特別法として、被害者が証明しなくとも、被害を被ったという事だけで賠償を受けられるようにしたものです。
製造物責任法ができるときは、日本中のメーカーが大変なことになる、と大騒ぎしたものです。各地で勉強会が開かれたりしました。おかげで、各メーカーの製品に対する安全基準は高められたのは記憶に新しいことです。
保険会社の事故担当者も、人身事故の担当者と物損の担当者が違うのもこのためです。もとになる法律が違うからです。物損の担当者は物分りがいいけれど、人身事故の担当者はどうしょうもないという話を、被害者の多くの方から聞きます。一般的に物損は、それほど金額的に賠償額が高くなることはありません。しかし、人身事故は多額の賠償が発生します。保険会社としても、被害者に物分りのいい担当者では経営は成り立たないと思われます。
自賠責の賠償額の限度は、一事故一名につき、死亡3,000万円、重度後遺障害4,000万円、ケガ120万円と決められています。車の修理代など物損にはまったく対応してくれません。対人賠償のみですので注意してください。
現在、死亡事故では賠償額が2億円を超えることもありますので、自賠責だけでは賄いつきません。それに上積みしてかけるのが任意保険です。一般的な常識のある人ならば、任意保険を掛けずに車にのるということはほとんどないと思います。
でも、自賠責だけで車に乗っている人がいることも事実です。そういう車によって重度の被害者にされてしまった場合は、被害者はもちろん加害者にとっても悲劇の始まりです。自賠責の補償範囲を誤解して入らない方もいるでしょう。若い人で、世間一般の金銭感覚がまだ十分に備わっていないがために任意保険に入らない方もいると思います。
私の子供も一時期任意保険に入らずバイクを運転していました。それを知りバイクを取り上げると言うのと同時に、事故を起こした場合の補償の問題やら、個人だけの問題ではなく家族にも累が及ぶことを説明しました。翌日すぐに自分で手続をしてきましたが、自賠責に入っているからいいんだ、位の認識しかありませんでした。
自賠責にしか入っていない車ほど事故を起こす確率も高いのです。自賠責の補償の限度をよく確認して、勘違いをしないようにして下さい。原付自転車でよくあるのは、うっかり更新の手続を忘れて、自賠責すら入っていないということもあるのです。
事故には自転車の事故もあります。自転車の事故は10年前に比べて4.2倍になっている、と言う統計があります。携帯電話をかけながら、ペットボトルをのみながら片手で、前方不注意で歩行者にぶつけて死亡事故まで発生しています。高校生なら自転車通学は保険の付保が条件になっているでしょうが、駅まで自転車で通勤に使っている人も自転車保険は僅かな掛金で加入できます。
任意保険は自賠責で補償されない部分を補償してくれる保険です。加害者になった経験のある人は、このようにいうかも知れませんね。あのときの事故はすべて任意保険が払ってくれた、自賠責の手続は何もしていないはずだ、と。
人身事故が発生した場合は、自賠責と任意保険は密接な関係があります。加害者はほとんど保険会社に任せきりでですから、気にしないまま終わってしまいますが、被害者になるとそうはいきません。保険の仕組みを理解していないと何がなんだか分からないまま示談ということになってしまいます。
現在の保険はほとんど示談代行付きというものです。加害者にとってはありがたい保険ですが、被害者にとっては事故の当日以外は、加害者は一度も顔を見せない、けしからんということも起こります。あまりに加害者に誠意がないと見られると、行政処分、刑事処分で泣きを見ることになります。
事故が発生し被害者は病院に入院し治療を受ける場合は、病院が治療費を保険会社に請求します。保険会社はそれを支払った上で、自賠責へ加害者請求をして回収します。自賠責の限度額を超える額を任意保険で支払うことになるのです。これが『任意一括』といわれる制度です。
自賠責は過失が100%(赤信号で停止中の車に追突のような場合)でない限り、減額はされても保険金はでます。そもそも自賠責には、一般的な意味での被害者、加害者という概念はありません。傷害を受けた人が、保険を請求する場合は被害者といいます。 |