【相続の単純承認と放棄】
相続が開始すると、相続人は何もしない限り、相続財産を受け継ぎます。
これを単純承認といいます。
法律では放棄するのも3ヶ月という短い期限がありますので、ゆっくりしていられません。
(1)単純承認
借金があるし、放棄しようかどうしょうかと迷っている場合でも、次の行為があると単純承認したものとみなされるので注意が必要です。
・法定単純承認(921条)
民法は3つの場合に単純承認がなされたものとみなすという規定があります。
@相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし保存行為や602条に定める短期の期間を超えない賃貸をすることはここでいう処分にはあたりません。
A相続人が熟慮期間(3ヶ月)内に限定承認も放棄もしなかったとき
B相続人が、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、これを消費し、または悪意でこ れを財産自録中に記載しなかったとき。
相続が発生したのかどうか不明の場合に、それを知らずに@の処分をしても問題とはされません。
(2)限定承認
借金が多くて相続財産がトータルでマイナスになっているおそれがある場合には、とりあえず相続財産の範囲内で債務を清算し、残りがあれば承継するという選択をすることができるが、それを限定承認といいます。
限定承認は手続が面倒なので、実際には利用がごく限られています。このような制度もあると理解ください。
(3)相続の放棄
相続人には自らの意思で相続しないことを選択する自由が認められています。これを相続放棄といいます。たとえば、被相続人の財産が100万円で債務が200万円とすると、単純承認した相続人は
債務超過となっている100万円分を相続人自身の財産から弁済しなければいけません。
それでは、かえって持ち出しになってしまいます。このような場合に放棄が使われます。
◆放棄の手続と熟慮期間
相続放棄は、その旨を家庭裁判所に申述することによってなす (938 条
)、とされています。
ただし放棄の申述は自己のために相続の開始があったことを知った時から 3 ヵ月以内になされなければなりません。3ヶ月という期間は、その間に49日が行なわれたり、あっという間に過ぎてしまうので注意が必要です。
・相続人が複数いるときは、熟慮期間は各人別々に進行することになっています。この期間は利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所において伸長することができます。 (915
条 1 項但書 )
相続放棄は必ず家庭裁判所に申告して行わないと無効となります。したがって、相続開始前に相続を放棄することもできません。
放棄の手続に関しては、3 ヵ月の熟慮期間の起算点が問題とります。なすなわち、「自己のために相続の開始があったことを知っとときからなのです。
この3ヶ月を熟慮期間ともいいます。
・被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたので、何もしなかった。(結果として単純承認となった)でも、後から借金があるのが判明した場合
たとえば、悪質な債権者が遺産が債務 超過になるような高額な債権の存在を相続人に知らせずにおき、熟慮期間の経過を待ってから相続人に弁済を請求するようなことがあったら大変ですね。
そのように信ずるについて相当な理由があるときは、熟慮期間は、「相続財産の全部又
は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算 」するとの判例がありますので、救われます。
・二重身分の相続放棄
例えば、孫がおじいちゃんの養子になると、本来の直系卑属(=孫)という身分と、養子(=子)という身分の両方を併せ持ちます。
本来の孫の父親が既に亡くなっていて代襲相続が発生していた場合は、おじいちゃの子として2人分の相続権が発生します。
このような場合、一方のみを放棄できるか、という問題が発生します。
これはいろいろな学説があり一概に判断はできませんが、できると考えてよいと思います。ケースによっては非常に微妙な問題もあるんだ、くらいに受け止めて置いてください。
【相続放棄の効果】
「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかったものとみな」される
(939 条 )。その結果、放棄した者を除く他の共同相続人が相続することになります。
放棄した者に関しては代襲相続も発生しなくなります。
887 条2 項は、代襲相続の要件を被相続人の子が「相続開始以前」に相続権を失った場合に限定しており、相続開始後になされる放棄が含まれないためです。
この点、相続欠格や廃除とは異なります。
放棄するということは、自分の相続関係者(子や孫)に遺産はいらないよ、という意思の表明なのですね。
相続放棄は撤回することができません。919 条l項は「承認及び放棄は、第915条第1項の期間内(3ヶ月)でも、これを取り消すことがでいない、と規定されています。
【相続放棄の現実的な姿】
a)被相続人が債務超過に陥っている場合が一番多い。
b)相続人の中の特定の一人に相続財産を集中させるために他の相続人が放棄することケ-スはよく見られます。農家で土地の細分化を防ぐ等の目的で使われることが多いのです。
b)の場合の具体的な方法
@1人の相続人を除く他の相続人は すでに被相続人から十分な生前贈与を受けているとして自分の相続分はゼロであるという証明書を作成し、これを相続登記申請書に添付する方法です。(
相続分皆無証明書という )
A1人の相続人が遺産のほとんどを取り、他は名目的な財産を取ることを内容とする「遺産分割協議書」を作成・添付して相続登記する方法です。
これらの手段は、事実上、相続放棄と同じ結果をもたらすことができますので事実上の相続放棄と呼ばれ、現実には、正式の相続放棄より事実上の相続放棄の方が圧倒的に多いのです。
以前は、事実上の放棄をすることに理由がありました。相続税の計算の中で、放棄した相続人は相続税額の計算上相続人の数に算入されなかったため、正式の相続放棄をすると残りの相続人の 1 人当たりの相続分の金額が大きくなったのです。
その結果、累進税率のため、放棄がない場合に比べて支払う税額が大きくなったのです。しかし昭和33年の相続税法改正により、相続放棄があっても計算上はなかったものとして計算するようになったのです。
したがって、事実上の相続放棄が使われるのは、家庭裁判所の審判が不要で手続が簡単だということと、熟慮期間(3ヶ月)を過ぎても利用できるという理由が一番大きいのです。
相続税については、別にページがありますので参考にしてください。
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